Arca / Kick II

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前作で感じたArca第二章はやはり本物だった。
形の定まらない突然変異体だったArcaがレゲトンやクンビアといったトライバルなビートや、変調されたスペイン語のヴォイス・チョップ/チャント/ラップといったアイデンティティを得て、一気にポップ&グロテスクに実体化したといったイメージを喚起させる。

特に後半に相変わらずアブストラクトなトラックもあるにはあるが、明快なソング・ストラクチャを持った曲との対比によってこそ生き生きとした活力が与えられている。
M9等のビートレスでミュジーク・コンクレート的なトラックはしかし、確かに音楽的な豊潤さやポップネスを備えており、初めてOPNとArcaを併置する事への違和感が払拭された感がある。

Siaが歌うArca初のバブルガム・ポップ調のM11には何処かGrimesを彷彿とさせるような感じもあるし、Arcaには珍しいBPM140前後の4/4のキックが挿入される2コーラス目は2021年の「Hyper-Ballad」といった趣さえある。
(ちょっと短過ぎてもう1コーラスくらい欲しいところだが。)

Arcaのサウンドの特異性は、その音色のユニークさ自体もさる事ながら、それらのトラックを構成する全ての音が有機的に響き、色、量、ピッチを目まぐるしく変化させる事による複雑性にあると思うが、以前にはそれらが重なり合った結果、総体として顕れるのは殆どノイズに近い混沌としたサウンド・スケープであったのに対して、前作からはその配置が大幅に整頓された上、元々音色に強度があるところに更にポップネスが加わったのだからそれはもう無双と言って良いだろう。
プロフェッショナルという意味である種のセルアウトには違いないが、稀に良いセルアウトもあるのだという好例で、その点に於いてAphex Twin「Syro」に相通ずるものを感じる。