Jon Hopkins / Singularity

倍音を多く含んだざらついた質感のアトモスフェリックで深淵な響きの上物と、ミニマル・テクノ風のイーヴン・キックのビートの組合せには、The Fieldのシューゲイズ・テクノに通じるものがある。
各トラックのスケールには統一感があり、特に裏拍にアクセントを置いた類似のコード進行を持つM2〜M4は、シームレスに繋がった1トラックのようで、ビートレスのアンビエントとダンサブルなビートが満ち引きを繰り返す様は、DJミックス的なそれと言うよりもFishmans「Long Season」を思い出させるようなヒプノティックな組曲的なもので、アルバム全体を通じてもある種のストーリー性を感じさせる意味で映画音楽的でもある。

アタックの強いビートはフロアで機能するに充分な強靱さを備えてはいるものの、長く持続させるにはややアイデア不足の感があり、やはり上物のレイヤーやアンビエンスの方に肝要がある感じがする。
ビートが無くても充分に聴き応えがありそうという意味で、純然なテクノと呼ぶには違和感があり、やはりBrian Enoを継ぐような存在感がある。

クラシカルなピアノとクワイアのような男女混声コーラスによるアンビエントのM5や、リリカルなピアノの独奏に仄かに電子音が寄り添うM9からは、クラシカルな教養が滲み出していて、やはりこちらの方が本当の姿なのだろうという感じがする。
コンポジションの基盤にあるピアノの存在やメランコリックなメロディ・センスには何処か坂本龍一を想起させるところもあり、ダンサブルだが不思議と必然性を感じないビートの在り方は「B-2 Unit」的と言っても良いかも知れない。

総じて言えば潔癖で優等生的な感じのIDMで、ユーモアには欠けるし、お友達になり辛い感じに思わず茶々入れしたくなるが、ピアノがポリリズミックにレイヤーされるM8等は確かに美しい。
ただその美しさは宛らジャケットの写真ように邪気が無く、言い方は悪いが月並な感じは否めない。