Zomby / Ultra

些か大仰な低音のシンセによるディストピックなオープニングが、Kode9 & The Spaceape「Memories Of The Future」と同質の感覚を喚起させ、一気に気分が2006年にタイムスリップする。
奇しくもZombyのHyperdub復帰作となった本作だが、当時と違っているのはキックやスネアの不在で、これがWileyの発明と言われるウェイトレス・グライムへの同調だろうかと思いはするものの、Wiley自身のトラックは未聴なので実際のところは良く判らない。
ともあれこの10年でHyperdubが様変わりしたのと同様に、Zombyも変化を続けている。

とは言え本作はUntoldやPearson Soundのような、ポスト・ダブステップが弾けた後に頻発したアヴァンギャルド志向に寄った作品では全くない。
如何にもメインストリームのR&Bから取られた感じの女声ヴォーカルのループが途中から不気味にスクリューされるM3はゴーストリーな「CMYK」みたいだし、M4以降ではビートも復活し、M5へと続くノイズ混じりのメランコリックな2ステップはBurialの不在を埋めるようでもある。

そのBurialとの共作であるM7は、嘗てのダブステップのスターの姿からは想像も付かないアブストラクトなシーケンスとジュークめいたループにノイズが絡む呪術的なサウンド・コラージュで、アルバム中最も実験的な内容になっている。
散発的なシングルのリリースでその動向を聞き知ってはいたものの、Burialもまた同じ場所に留まってはいない事を確信させるに充分なトラックである。

ミニマル・テクノチップチューンの融合のようなM6やM12のジャングル風のビートは、嘗て「Where Were U in '92?」なるタイトルで作品を発表したZombyの90'sレイヴへの偏愛を思い起こさせるし、代名詞とも言えるチップチューン的な高音は発展・洗練されて、乱反射するプリズムのようなイメージを惹起させるものからチェンバロ風にまで拡張されている。
M8やM13は最早グライムもダブステップの影も無いアンビエントで、控え目に言ってもウィッチ・ハウス風に終始した印象のある「Dedication」よりも格段にポップでバラエティに富んでいる。