Mitski / Laurel Hell

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The Weeknd「Dawn FM」に引き続き、2022年になっても相変わらず80年代は終わる気配を見せない。
(勿論90年代だって同じだが。)
M6の直線的なベース・ラインとオールドスクールなシンセはA-haなんかを彷彿とさせるし、M7はまるきりNew OrderでM11もディスコティック。

Beach Houseのようなシューゲイズの要素を含んだドリーム・ポップもあるし、M2の微かなゴスっぽさはSharon Van Etten「Remind Me Tomorrow」にも通じるが、全体的にはピアノやシンセの比重が高くなり、ギターの存在感は相対的に減退した感がある。
別に元々ギターだけが特別なシグネチャという訳でもなかったとは思うし、程度の問題ではあるけれど、ロックからよりポップ寄りのサウンドへの大胆な変化という面ではSt. Vincent「Masseduction」を思い起こさせたりもする。

M9はJulia Holter「Everytime Boots」を彷彿とさせるが、その明け透けなポップ感はJapanese Breakfastにも通じる。
ポップ・フィールドでのエイジアンの活躍という点ではBTSなんかとも繋がっているのだろうと思う。
構造としてはクィアが席巻した10年代に引き続き、ポップ・ミュージック界をダイバーシティの波が覆っているという事なのだろう。

目新しさは何処にも無いが、平たく言っても佳曲だらけであるのは間違い無く、キャッチーでありながらもなかなかに入り組んだメロディには関心させられるし、表面的なサウンドの主軸となる音色が変わってもぶれないソング・ライティングの強度がある。
落ち着いた感じの歌唱も魅力的で、本来シンガー・ソングライターというのはこういう人を指す為にある言葉なのだろうと思う。