Leon Vynehall / Rare, Forever

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決してフロア向けという感じはしないが、殊更エクスペリメンタルな訳でもなく、寧ろ最良のブレイクだけを引き延ばして寄せ集めたかのような感覚がある。
解り易いアッパーさは無く、確かに2010年代以降のテクノに顕著なアンチ・クライマックス性があるが、決してアンチ・ポップではない。

ヴォイス・サンプルが多用されているにも関わらず、歌物と呼べそうなトラックは皆無で、上物やソング・ストラクチャの存在感も希薄で、表面上は余り(Leon Vynehallの出自である)ハウス・ミュージック的な印象は受けないが、M8等の幾つかのビートはテック・ハウス的で、Herbertを彷彿とさせたり、或いは個人的に懐かしいCX Audio IEを思い出すところもある。

M1のダウンテンポに於ける幽玄なストリングスのように、自然で取って付けたような感じはまるで無いが、要所要所で生楽器の音色がアクセントになっている。
特にM4やM10のサックスを初めとして、ジャズ的な要素が本作のトーンの一つになっていて、全般的に「In Situ」以降のLaurel Haloに通じるものも感じさせる。

ながら聴取している分には頗る格好良いのだが、今一つ掴み所の無いその在り方は極めてデザイン的で、スタイルは全く異なるがOvalの事に思いは及んだりもする。
(因みにM2はまるでOPNみたいだが。)
と言うとまる貶しているみたいだが、集中的聴取を以て初めてその価値が認識出来る音楽と、集中的聴取によって得られる含蓄の無い優秀なBGMとの間に、絶対的な優劣の差などありはしないのだ(と自分に言い聞かせる)。