Wilco / Cruel Country

M1は誰か別のメンバーが歌っているのかと思ったが、クレジットを見る限りではヴォーカルは全てJeff Tweedyとなっており、まるでBob Dylanの歌真似でもしているかのようだ。
自伝でもBob Dylanへの敬愛を表明しているJeff Tweedyの事だから全く有り得ない話ではない。
というような事を思ったのも、本作がこれまでのWilcoの作品の中で、最も「オルタナ」の付かないスタンダードなフォーク/カントリー然としているからで、タイトルからしてプロテスト・フォーク的なコンセプトを携えたアルバムなのかも知れない。

フィドルとかマンドリンとかバンジョーといった、如何にもカントリーな音色が使われている訳ではないけれども、スティール・ギターの存在感が強く、Jeff Tweedyのソロとの連続性を強く感じる。
M2の背景で微かに鳴るロケット花火(または焼夷弾?)みたいなSE等、Wilcoらしいところが全く無い訳ではないけれど、どの曲もコンパクトで長尺でアーティーな曲は殆ど無い。

Glenn Kotcheのテクニカルなドラミングが鳴りを潜めているのは寂しい気もするが、退屈な印象が否めなかった「Warm」に較べると純粋に良いメロディが多いし、アレンジも地味ながら丁寧に練られた印象を受け、意外にも総じて好感が持てる。
Jeff Tweedyにばかりフォーカスが当たりがちなWilcoだが、やはり確実にバンドとしてのマジックがあるのだ。

M14やM17はディズニー・ランドのその手のエリアで流れていそう、という点ではBonnie Prince Billy「I Made A Place」と通じるものがある。
ついつい「ルーツ・オリエンテッド」という言葉を使いたくなる内容だが、Jeff TweedyのルーツにはBob Dylanと同時にパンクもクラウトロックもあるのであって、余り正確な表現だとは言えない。
寧ろWilcoというバンドのキャリアに於いては、かなり挑戦的なシフト・チェンジだと言っても良いだろう。