Denzel Curry / Melt My Eyez See Your Future

確かに期待したものとは違う、寧ろ正反対だと言っても良いかも知れない程だが、Robert Glasperのピアノを擁したM1のジャジー・ヒップホップはまるで「Things Fall Apart」の頃のThe Rootsのようで頗る良い。
Saul WilliamsをフィーチャーしたM6なんかにはネオ・ソウル、と言うかもっと正確にはSoulquarians感があり、M14もGuru「Jazzmatazz」を思い起こさせる正統派のジャズ・ヒップホップ。

続くM2も女声のサンプリング・ループがムードを引き継ぐが、中盤に差し掛かったところで一転ピッチ・ダウンしてTR-808風のハット音が聴こえてくるとがらりとモードが切り替わる。
それでもトラップの範疇にあるビートに依拠していた「Zuu」とは随分印象が違う。

Denzel Curryの特徴であるオンビートのフロウも相変わらず快楽指数が高いし、トラップ・ベースのトラックが全く無い訳でもないが、J Dilla張りのブレイク・ビーツと言い、トラックが醸出するムードは余りに前作と違う。
生粋のトラッパーとばかり思っていたが、寧ろ「Zuu」は戦略的にトラップとオールド・スクール・ヒップホップの融合を狙った結果だったのだろうか?

Slowthaiとの英米の注目株の共演となったM13のオールド・スクールなドラムン・ベースは、Roni Sizeが手掛けたトラックの上でラップしたRedmanを思い出させ思わず頬が緩むし、不自然なくらい執拗にスクラッチが挿入されるM3やM14からも、ヒップホップの歴史書を小脇に抱えた戦略的なリヴァイヴァリストなのだろうという確信が強くなる。
勿論単なる懐古趣味ではなく、新たなオルタナ・ヒップホップの急先鋒という意味でJpegmafiaなんかの同類と捉えた方が良いのかも。