Yves Tumor / Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)

トリックスターならではの一時の気の迷いだろうくらいに思っていた前作の路線を踏襲しつつ、それに輪を掛けてポップネスが追求されている。
野太いベースが曲全体を引っ張る構造はそのままに、新たにグラム・ロックの一言では片付けられない多様な音楽性を獲得している。

同時期に聴いていたSlowthaiと同様に、M1はYves Tumorまでもがポスト・パンク・リヴァイヴァルに便乗したかのよう。
拍をスライドするヴォーカルやギターのフレーズが産むトリッキーなリズム感は中毒性が高く、インテリジェンスを感じさせる。
女声ヴォーカルをフィーチャーしたM2や直線的なベースが基調を担うM7やM10にはニューウェイヴ的な感覚もある。

M3に至ってはラウド・クワイエット・ラウド・ダイナミクスが完全にグランジで若干引かないでもないが、ヴォーカルに暑苦しさは無くプレーンだから未だ聴ける。
これでヴォーカルまでもがゴシックだったりしたら流石に鬱陶しいだろうという意味で、意外に声や歌唱もチャーム・ポイントと言っても良いかも知れない。

一方でM12なんかのDavid Bowie直系のブルー・アイズド・ソウル趣味が入ったメタ・グラム的楽曲も健在。 
(尤もジャケット写真はZiggy Stardustを通り越してまるでジャガーさんのようであるが。)
異形のポップ・スターとしての足場を確固たるものにする充実作だと言えよう。