Mitski / The Land Is Inhospitable And So Are We

前作「Laurel Hell」に於ける80’sマナーのポップ路線とは打って変わって、フォークやアメリカーナに舵を切った作品と言って差し支え無いだろう。
評価の高さはリリックに多くを依っているようではあるが、やはりアメリカーナには欧米人の心を擽る何かがあるのかも知れない。
日系人のMitskiがそこに向き合うとすれば、尚更バイアスが掛かるのも無理は無いように思える。

嘗てはディストーションが掛かっていないギターは全て屑だと思っていた世代の日本人にとっては全く理解が出来ない、と言うかフォークやカントリーと聞くだけで条件反射的に一段トーン・ダウンしてしまうが、本作にそれが無いのは紛れも無くMitskiのソング・ライティング能力によるものだろう。
アレンジが変わっても曲の強度は不変で、それでいて単にアレンジを変えただけでなくソング・ライティングとアレンジとが相互に影響し合っているような必然性を感じさせる。

一方で同時にフォークやアメリカーナという言葉が反射的に想起させる慎ましさからは零れ落ちるある種の大仰さや過剰さ、言わばマキシマリズムも確かに存在している。
例えばM1はクワイアによるラウド・クワイエット・ラウド・ダイナミクスと表現したくなるような、少し暴力的なまでの音量でミックスされているし、M5終盤に於けるツイン・ペダルによるキック・ドラムはそこだけ聴けば宛らスラッシュ・メタルかのよう。

そもそもフォークやアメリカーナ以上にバロック/オーケストラル・ポップの要素も強く、M6等はVan Dyke Parks、引いてはWeyes Bloodにも通じるし、M9の荘厳さは宛らEnyaのようでもある。
M11のシューゲイズ/ドリーム・ポップ風にはBeach House等を彷彿とさせる感覚もあり、アルバム全体の世界観を壊さない程度のヴァリエーションがある。