Slowthai / Ugly

重低音の痙攣のようなサブベースの連打と断末魔のような壮絶なシャウトがDeath Gripsと聴き紛うようなインダストリアル・ヒップホップでアルバムの幕は開ける。
続くM2は最早ヒップホップやグライムの枠を大きく超えて、ポスト・パンクと言った方が余程適切に思えるトラックで、軽快なM3はYoung Fathers等に通じる。

楽曲の多くはギターを基調としており、M2やM3、M10等の無調のヴォーカルは最早ラップと言うよりSquidやBCNRのようなポスト・パンク・バンドのそれとまるで違わない。
と言うか普通に歌っている曲さえ多々ある。
スローでブルージーなM9やM11で聴かれるシャウトは殆どKing Kruleのようで、M8やM13に到っては大仰なギター・リフがポスト・パンクどころか普通のハード・ロックにも聴こえる。

ポスト・パンク・リヴァイヴァルとして聴いても充分に格好良いのは間違いないが、純粋なヒップホップとして受容出来そうなのはM6くらいのもので、グライム新世代の牽引役として期待していた向きには(自分の事だが)不満もあろう。
グライムやUKヒップホップのネクスト・ジェネレーションとして確固たる成功基盤がありながら、ここまでそれに依拠しないどころか、真っ向から否定しているようにも受け取れる様は、チャレンジングで間違いなく賞賛に値するが、最早オルタナティヴ・ヒップホップを通り越してロックの棚に入れるべき作品であるのも間違いなく、複雑な心境ではある。

ただロック・ミュージックがヒップホップやエレクトロニック・ミュージックよりも劣っているという感覚自体が恐らく現在40歳くらいより上の世代特有のもの(これを称してトム・ヨーク・コンプレックスと呼ぶ、というのは今思い付いただけだが)で、Slowthaiや或いはもう少し歳は上だがYves Tumorのような若い世代にとってみれば、実にナンセンスであろう事は想像に難くない。