James Holden / Imagine This Is A High Dimensional Space Of All Possibilities

M2等は低レートのサンプリング風のくぐもったレトロな音像とブレイクビーツThe OrbThe KLFを彷彿とさせるという意味で、確かにアンビエント・テクノ的だと言って良いだろう。
90’s初頭のレイヴ・シーンに於けるアンビエントはチルアウト・ルームで掛かる音楽という意味を内包していたという点で、その後のリスニング・テクノの先駆けだと言えるが、本作もその例に漏れず、ビートの音量は控え目で全く以てフロア向きではない。

代わりに森林に蠢く生物が発する音を連想させるアニミズム的なノイズ(それはジャケットの世界観ともリンクするよう)であったり、狂ったように縦横無尽に無秩序に行き交うスペーシーなエフェクトやSEの音量が余りに大きく、スタイルこそまる違うが、Panda Bearの諸作やSonic Boomとの共作に通じる感覚がある。

一方でフリージャズ風のホーンから各種パーカッションや民族音楽風のチャイムやゴング、M9のジプシー音楽風のフィドルや電子音でバーンスリーを模したようなラーガ調までと、多様な器楽音が存在感を放っており、その何処かローファイでサイケデリックでフリーキーな感覚は2000年代のコズミック・ディスコ/ディスコ・ダブを思い起こさせたりもする。

M10等はコズミッシェやニューエイジ的でもあり、アルバム全体が壮大な物語か精神世界への旅でもあるかのようなトランシーな感覚がある。
何処から何処までが1曲なのか判然としない様には、ムードは全く違えどShackleton「Music For The Quiet Hour」共通する部分があるし、ヒプノティックなM7等はThe Fieldなんかのシューゲイズ・テクノに通じるものもあり、勝手に持っていた大箱志向のDJのイメージを覆すに充分な多様性がある。