Juana Molina / Halo

Juana Molinaの名前にはどうしても嘗てのアルゼンチン音響派のイメージが付き纏うが、文脈に囚われない電子音と生音のバランスや、使い古された言い方ではあるが、楽器或いは一つの音としての声の存在感にはポップに洗練される以前のJulia Holterにも通じる感覚がある。
と言ってもアンビエント/ドローン的な感覚は希薄で、寧ろ隙間の多いビートが齎すチープネスや、ユーモラスでやや捻くれた感じのメロディ等から嶺川貴子を連想したりもする。
(M1のミニマルなシンセベースとストリングスの対比なんかは特に2000年作の「Maxi On」の楽曲を彷彿とさせる。)

アンビエント/ドローンの隆盛と共に浮上した所謂「宅録女子」(しかし何と失礼なタームだろうか)に括られたものの中には、勿論Laurel HaloやInga Copelandは例外として、案外リズムに面白味を感じられるものが少なかった印象があるが、本作の例えばM2のアフロビート風のトライバルなリズムや、裏拍の強調にハイハットの多用が人力ドラムンベースのようなM5等は、充分にフィジカルでファンキーですらある。

しかしそのリズム/ビートのセンスはテクノ/ハウス以降のものとは明確に違っており、クラブ・カルチャーの影響は希薄。
(本人はインタビューで好きではあるが全く詳しくはないと語っていた。)
それもJuana Molinaが1961年生まれでBjörkよりも更に4歳も年上である事実を考えれば自然なようにも思えるが、その感性はJulia HolterやLaurel Haloに引けを取らないくらいにフレッシュで、決して彼の地の音楽に精通している訳ではないが、アルゼンチンという土地柄由来のものとも思えない。

シンセ・ベースやギター・フレーズのループを基調とした構造は、クラウトロック或いはポストロック的ではあるものの、そこで想起されるどのバンド/アーティストとも似通っておらず、果たしてこのサウンドが一体何処から来たのか見当も付かない。
トレンドとは無関係だが、かと言って懐かしさは一切無く、きっといつの時代に聴いても同様の感覚を齎すだろうという意味で圧倒的にオリジナルで、まるで独自の進化を遂げた孤島のような音楽である。