Beatrice Dillon / Workaround

f:id:mr870k:20200909211947j:plain

非西欧のパーカッションを採り入れたエレクトロニック・ミュージックは数多あれど、Aphex Twin「Digeridoo」にしろ、Shackletonの諸作にしろ、呪術的といった表現に表象されるエキゾティシズムを纏ってしまうのが普通だが、Beatrice Dillonの作るビートはタブラを始めとした音色をアクセントとしながらも、全くそのようなイメージに回収される事がない。
それらの音色は確かに特徴的だが、全く依存はしていないというのは、地味なようでいて実に革新的な事だと思う。

基本的に無機質でクールだが、突如として朗らかなブラスが挿入されるM2に於ける奇妙なジャズの援用等、Laurel Halo「Dust」と共振するユーモアを感じさせる。
同時に柔和なテクスチャのシンセ、スペースが多くシンプルでプリミティヴでバウンシーなビート、そして時折聴かれるヴォーカルはYaejiに通じるところもある。

確かにビートを構成する要素やシンセの音色自体は至って素朴で、Yaejiと同じくGarageBandで制作したのではなかろうかといった想像をさせるが、リズムは一聴した印象よりもずっと複雑で、トラックによってはAutechreを連想させたりもする。
特にキックを打つ位置が予想外で、極めて独創的なリズムを生み出している。

総じてボトムは軽めで、決して所謂フロア向きのサウンドではないが、リズムを構成する要素としてのサブベースは雄弁で、トラックによってはミニマル・ダブ(特にKit Claytonとか)を思わせるし、M6やM9等には不思議な疾走感もある。
Panのレーベル・イメージに違わぬエクスペリメンタルさもありつつ、取っ付き辛さは皆無で、ポップでフレンドリーで時にチャーミングだとさえ感じる。