Caribou / Suddenly

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未だ個人的にはManitoba名義の所謂フォークトロニカのイメージが強いだけに、猛烈にチルウェイヴを想起させるM2のシンセポップには些か驚いた。
最大のトピックは大半のトラックでフィーチャーされているDan Snaith自身のヴォーカルであろうが、そのプレーンな歌声故なのか不思議と全く主張は強くなく、殊更に歌モノという感じ はしない。
それ以外でもアルバムを通じヴォイス・サンプルやヴォーカル・チョップが多用されており、声の使用は一つの通底するテーマではあるらしい。

とは言え例えばM3の歪曲・伸縮するピアノや、M9のピッチシフトにより変調され不安定に歪み畝るギターの奇妙な音色には、確かにあの時代の名残がある。
同時期に同じくハウスやチルウェイヴ的意匠を採り入れたTame Impalaとは流石にエレクトロニック・ミュージック・アーティストとしてのキャリアが違う。

ベテランらしい精巧さの一方で、M2の気の抜けるようなヴォーカル・チョップにはユーモアがあるし、フォークトロニカとラップの断片を組み合わせたようなM3、M5のサンプル・ベースのブレイクビーツ等には愉快な驚きがある。
M7やM11は比較的ストレートなハウスだが、ブレイクに於けるリズムの抜き差しやフィルターによる緩急には(余りイメージには無かったが)DJとしての経験も確かに反映されている

他にもレトロ・フューチャリスティックで柔らかな質感のアナログ・シンセにプレーンなヴォーカルが乗るM10のダウンテンポAirにも通じるし、クラフトワーキッシュなビートが幽玄 なサイケデリックに発展するM12等、トラック毎の個性がはっきりしていて、アルバム全体に豊潤でカラフルな印象がある。
凄味こそ無いが、良い意味での軽さがあり聴き飽きない。