Sault / Untitled (Rise)

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単に優雅だとか流麗だとか荘厳だとか言うのとは違う、些か大仰なストリングスが醸し出すM1の異物感はLittle Simz「Offence」と同質のもので、スムース・ソウル、ジャズ・ファンク、アフリカン・パーカッションのアンサンブルにブギーファンク等の要素が、次々と折り重なってはスライドし、矢継ぎ早にクライマックスが訪れる様は非常にエキサイティング。
「Grey Area」で片鱗を覗かせていた(そしてMichael Kiwanuka「Kiwanuka」では今一つ良く解らなかった)Infloの才能の全貌が遂に露わになった感がある。

対を成す「Untitled (Black Is)」に較べてよりポップでダンサブルで、音色面ではエレクトリック・ピアノやアナログ・シンセが目立つ。
タイトルからしてストレートなM4では、強靭なファンク・ビートと浮遊感のあるハウシーなアナログ・シンセの音色の組み合わせが齎す高揚感が半端無く、宛ら20年代の「Don't Fight It, Feel It」といった連想をさせる。

シンセ・ベースと高らかに舞い上がるようなハーモニーが心地良いフィリー・ソウル風のM6や、ピアノとベースとドラムのミニマルな構成のスウィートで牧歌的なソウル・ナンバーのラストM15等、ソウル・ミュージックへの深い憧憬も感じさせる。
M12やM13は映画音楽的とも言えるし、M14では50’sのモダン・ジャズを引用したりと、「Untitled (Black Is)」を含め、引き出しの多さには関心させられる。

それらは宛らレアグルーヴのDJミックスのようなエディット感覚があり、Cleo Solのプレーンなヴォーカルも擬似サンプリングのようで、言うなればその借り物感は、誤解を恐れずに言えば渋谷系に近い(勿論褒め言葉)し、ちょっとアシッド・ジャズ入ってるようにも感じられる。
レアグルーヴとはつまりは70年代であると考えれば、St. Vincent「Daddy's Home」とも共振 するようで、永遠に続くような思われた80’sリヴァイバルを漸く抜けて、多少なりとも地殻変動が起きつつあるのではないかという期待感が沸き起こる。