Armand Hammer / We Buy Diabetic Test Strips

2023年は先ずEarl Sweatshirtが、次いでDanny BrownやJpegmafia等が10年を掛けて切り開いてきた新時代のオルタナティヴ・ヒップホップが遂に百花繚乱に咲き誇った感あったが、その中でも特にBilly Woodsは主役級の存在感を放っていた。
世間的にはKenny Segalとの共作の方がより評価が高いようだが、オルタナティヴ度合で言うなら本作の方が上だと思う。

アルバム導入部はEarl Sweatshirt「Some Rap Songs」の系譜に連なる、徹底してアブストラクトなアンビエントクラウド・ラップ的なトラックが続くが、同時に多様なSEやノイズのカットアップに唐突なピッチ・シフト、それらをごった煮したコラージュ/ヴェイパー・ウェイヴ的な感覚と大胆で躁的な展開からは、確かにプロダクションに関わったJpegmafiaのセンスが感じられる。

フリー・ジャズを下敷にしたようなM3にはMoor Motherと共振する感覚があるし、そのMoor MotherをフィーチャーしたM12の発狂したCharles Mingusのようなフリーキーな曲調はDanny Brown「Atrocity Exhibition」を連想させたりもする。
El-Pがプロダクションとラップの双方で参加した一際リズミックなM8はまんまRun The Jewelsでちょっと笑えるが、アルバム全体にドープネスと同時に仄かに漂う叙情性や、M5の倍音をたっぷり含んだシンセ・ブラスのような音色は、寧ろ嘗てのCompany Flowを彷彿とさせる。

ドローン的なベースが厳かに進行する背景でSF風のSEが鳴るM7はAntipop Consortiumの名前を思い起こさせ、ポスト・トラップ時代のオルタナティヴ・ヒップホップの集大成のようであると同時に、2000年代前半のアンダーグラウンド・ヒップホップの空気感を継承するような作品でもあり、今後の活躍に期待感を禁じえない。