Laurel Halo / Atlas

個人的にLaurel Haloにはトリックスターというか、ストラテジスト的なイメージがあり、決して奇を衒っているというような事ではないのだが、そのサウンドには純粋な音楽的好奇心の発露という以上の、何かコンセプチュアル・アート的な思考の存在を感じてきた。
それだけにこれほどエレガントで素直に美しいと感じられる音楽を、Laurel Haloが作る事になるとは思ってもみなかった。

基本的にはシンセにストリングスやピアノを加えたモダン・クラシカルやジャズ・アンビエントに分類可能なサウンドで、BGMとして流しっ放しにしている分には然程面白い音楽ではないが、ヘッドフォンを付けて細部に耳を澄ませると、まるでピアノの残響が奇妙に畝っているような特異な音響にLaurel Haloらしさを認める事が出来る。
しかしそれ以上に驚異的なのは、シンセと器楽音が混じって生み出される絶妙に心地良い不協和音で、これが即興の産物だとしたら奇跡的だし、コンポジションによって創造されたものだとすれば途轍もない才能だ。

(誤用を承知の上で)これまでデコンストラクテッド・クラブという言葉から真っ先に思い浮かべるのがActressとこのLaurel Haloだった。
それはデコンストラクト=既存の音楽のストラクチャを解体するような在り方を、Laurel Haloのサウンドに見出していたが故だが、本作にそのようなアプローチは聴き取れない。

そもそもアンビエントに解体可能なストラクチャというものが存在するのかは、難しく且つ興味深い問題だが、ここではそれは置いておくとして、アンビエントという特定の様式の範疇に収まっているからこそ、これまで可視化され辛かったLaurel Haloの音楽家としての技量が遺憾無く発揮された作品だと言って良いだろう。