Danny Brown / Quaranta

確かにフリーキーさは減衰し落ち着いた感があり、Danny Brownの作品の中では間違い無く突出して地味だとは言える。
インタビューを読むと敢えてトーンダウンを企図したところはあるようで、確かにラップにトレードマークである微かに狂気を滲ませるような上擦った声の使用は控え目で、地声に近い声色が大半を占めている。

但し地味とは言ってもあくまでDanny Brownにしてはという事であって、決して単調な訳ではない。
The Alchemistにしては珍しくいなたいロック調のM2は「Atrocity Exhibition」にも通じるエキセントリックさを醸し出しているし、M3やM4のサイケデリックなムードにはQ-Tipが手掛けた前作「Uknowhatimsayin¿」との連続性もある。

ビートのリズムの多様性はDanny Brownのオルタナティヴな存在感を際立たせてきた要素の内の最も重要なものの一つだが、本作では特にKassa Overallが関与したトラックが存在感を放っている。
流石はジャズ・ドラマーが作るビートだけあって、手数の多いファンキーなブレイクビーツはJpegmafiaの作るビートにも通じるアッパーさを備えている。
但し「Atrocity Exhibition」に於ける他に類似したものが思い当たらない特異なビートが齎す、危うささえ漂わせるフリークネスに較べると驚く程ではない。

そもそも期待値が高過ぎるが故に拍子抜け感は否めないが、少なくとも過去のどの作品にも似ていない点は評価に値するし、速球やフォーク・ボールばかりの配球では長続きしないのと同じように、こういうチェンジ・アップのような作品もキャリアには必要だろう。
2023年には本作の他にJpegmafiaとの素晴らしい「Scaring The Hoes」もあった訳で、未だ未だその存在感が翳りを見せる気配は無い。