Billy Woods And Kenny Segal / Maps

上音を構成する音色はジャジーなものが多いが、同時に至ってアブストラクトで、所謂ジャズ・ヒップホップと聞いて想像する類のポップなサウンドではまるでない。
M5のフリー・ジャズのサンプル使いと言い、Armand Hammer「We Buy Diabetic Test Strips」同様にやはりMoor Motherとの共振を強く感じさせる。

Kenny Segalのビートはミニマル且つローファイで、基本的にはシンプルなドラムマシンによるブーンバップ的なものが多い。
JpegmafiaよりもMadlibやThe Alchemist寄りのプロデューサーという感じがするが、時折瓦解するビートや、M2のローファイ極まりないギター、M7のAphex Twin「Selected Ambient Works Volume II」のサンプリング等、Billy Woodsのパートナーに相応しく一筋縄ではない。

アルバム全体に仄かな叙情性を漂わせていた「We Buy Diabetic Test Strips」に比べてメロウネスは希薄で、Danny Brownを招聘したM8等、時折ホラーコアばりのダークなムードも垣間見せる。
徹底してオフビートでアトーナルなBilly Woodsのラップとの相性は当然ながら悪くないが、その分違和感も無くややフックには欠ける。

特にアルバムが後半に差し掛かった辺りで顕著になる鈍重なビートや不協和音、ドローン等の要素が齎すドープネスはCompany Flow時代のEl-Pの作風を彷彿とさせる。
M15にはEl-Pに代わって、旧Definitive JuxクルーからAesop Rockが参加しており、2000年代前半のオルタナティヴ/アンダーグラウンド・ヒップホップへのリスペクトや連続性を感じさせる点は、その世代としては実に嬉しいものがある。