Earl Sweatshirt & The Alchemist / Voir Dire

Danny BrownはThe Alchemistと仕事が出来る事で自分が成功したのを実感するという旨の発言をしていたが、振り返ってみるとArmand HammerやMikeにもThe Alchemistと共同で作品を制作した実績があり、現在オルタナティヴを希求するラッパー達にとって、The AlchemistはEl-Pと並んで最も尊敬の対象となるプロデューサーであると言えるのではないだろうか。

考えてみれば2000年代初頭にDilated Peoplesと共に台頭し、Kanye WestJay-Zが王座に君臨したゼロ年代を生き抜き、トラップの時代にオーバーグラウンドでも確固たる地位を築き上げたこのプロデューサーは、現在のオルタナティヴ・ヒップホップのルネサンスと2000年代初めのアンダーグラウンド・ヒップホップを繋ぐミッシング・リンクのような存在に思える。

片やEarl Sweatshirtについてはかねてよりある意味ではTyler, The Creator以上に直接的に現在のオルタナティヴ・ヒップホップに至る道を舗装した存在だと思っているが、その2人が2023年にコラボレーション・アルバムをリリースしたというのは実に象徴的な出来事のように思える。
しかしもう一枚のシンボリックな作品であるJpegmafiaとDanny Brownの共作のアッパーさとは対照的に、「Sick!」である程度予想は付いた事ではあるが、本作の佇まいは極めて地味。

Danny Brown「Tantor」では珍しくエキセントリックなロック使いを披露したThe Alchemistだが、本作では通常営業といった感じで、マイナーなソウルや映画音楽等のレア・グルーヴのサンプリング・ループを中心にシンプルなビートを組み立てているのに対し、Earl Sweatshirtの方もいつもに増して淡々とゆったり揺蕩うようなフロウで応えている。
この2人が組めばこういう音楽になるだろうという想像通りの内容で、それ以下でも以上でもないが、ベテランならではの余裕と質の高さを感じさせる作品ではある。