Lil Yachty / Let’s Start Here.

冒頭のシンセの音色から、やはり代わり映えしないエモ・ラップ/ポップ・ラップかと思いきや、蓋を開ければ粘着質なエレクトリック・ギターがDMBQを思い起こさせるようなサイケデリック・ロックが展開されている。
プリズムのように乱反射するオルガンが特徴的なM2は、グラム・ロックのようでもサイケデリック・ソウルのようでもあり、少なくともLil Uzi VertやLil Nas Xよりは余程Yves Tumorに近い。
因みにこの曲には何にどう関わっているのかはさっぱり判らないが、なんとJam Cityがクレジットされている。

M1のタイトルにあるセミノールとは、柑橘系のフルーツの品種であると同時に、フロリダ辺りを起源とし、白人文化の象徴であるかのハードロック・カフェを買収したネイティヴ・アメリカンの一族の名前でもある。
これを知った瞬間に、Lil Nas Xのカントリー・ラップやカウガールの格好をしたSolangeにSZAやJorja SmithやAmaaraeのポップ・パンク、そして勿論突如としてロック・スターの意匠を纏い出したYves Tumor等が全て一つの線で繋がるような感覚があった。

つまりそれらは全て、ジャズやロックンロールにヒップホップにハウス/テクノといった発明を悉く白人に剽窃されてきた黒人の側からの、次は俺達/私達がお前達の文化を奪ってやる、という略奪と支配の宣言であるように思えてきた、という訳なのだが、とは言え本作は何もサイケデリック・ロックグラム・ロックだけで占められているという訳でもない。

M3のグルーヴィなベースやブラスが躍動する良質なファンクは、寧ろChildish Gambinoなんかと並べる方が適切なように思えるし、フィリー・ソウルのようなM8も心地良い。
シンセ・アンビエントとオートチューンが如何にもオルタナR&B的なM10は、在り来たりとは言え佳曲には違いなく、凡百のマンブル・ラップ/エモ・ラップよりは余程良い。
Kylie Minogue「Tension」と並んで2023年で最も良い意味で予想を裏切られた作品だと言える。