Oneohtrix Point Never / Again

Daniel Lopatin曰く「思弁的自伝」的な作品であるとの事で、テーマ的に「Garden Of Delete」との類似性が指摘されているようだが、自伝的要素というのが過去の自らの音楽的影響と対峙する事を意味しているとすれば、「Garden Of Delete」に於けるグランジと同じような位置付けである種シンボリックに用いられているのがJUNO-60のコズミックな音色だと言う事は出来るだろう。

但しそれは単純な原点回帰を意味している訳ではない。
「Age Of」以来のチェンバーな器楽音の導入は、本作ではオーケストラルと呼んで差し支えない程の重厚なサウンドへと発展を遂げている。
M13のストリングスが奏でる旋律は、我ながら安易だとは思うものの、Aphex Twin「Girl/Boy」を連想させる。
と同時に「Garden Of Delete」を思わせる派手派手しいアルペジエイターも登場し、総じて集大成的な作品だと言えそうではあるが、その印象が「Age Of」以来変わらないという事が微かな停滞感の源泉になっているのかも知れない。

とは言え勿論Daniel Lopatinの事なので、焼き直しだけという訳ではまるでなく、新しい試みもふんだんに盛り込まれている。
解り易いところで言えば先ずディストピックなムードを醸し出す生成AIによる不気味な歌の存在が挙げられるだろう。
ムードこそ全く違えど、これには歌に感情が入るのを嫌った竹村延和が合成音声ソフトウェアを用いた事を思い出す。
次に挙げられるのがLee RanaldoやJim O'Rourkeといった些か意外なゲストの参加で、それはつまりDaniel Lopatinの青春時代に当たる2000年代初頭のSonic Youthのラインナップという事になるが、これ程シンセ・ギターではないギターの音色が前面に出るのはOPNのディスコグラフィー上初めての事に思える。
またJim O'Rourkeに関して言えば、最初期のOPNを見初めたMegoから電子音響作品のリリースがあったり、レーベル・オーナーであるPeter Rehbergとの共作がある事を想起すると、意外に思えた組み合わせも案外腑に落ちる感じがする。
そう言えば件のPeter Rehberg、そしてFenneszとのFenn O'BergでJim O'Rourkeが聴かせた諧謔性に溢れたサンプルやカット・アップの数々は後のOPNの作風、特に「Replica」に通じるところもあり、多少なりとも影響があったりもするのだろうか?

心無しか所謂グリッチに類する音が多いようにも感じられるし、これまでで最もエレクトロニカ、引いてはゼロ年代初頭の音楽からの影響を公開した作品であると言えるのかも知れない。
そう考えると「Garden Of Delete」が少年期のDaniel Lopatinの自伝だとすれば、本作はその続編に当たる青年期を描いた作品という事なのかも知れない。
真偽の程はまるで定かではないが、こういう妄想を活性化するのも確実にOPN作品の楽しみの一つではある。