Kali Uchis / Orquídeas

Kali Uchisの新作にJam Cityが参加しているらしいという事前情報から、早速M1のハウス/UKガラージ風がそれなのかと思ったが、何とこちらはSounwaveが手掛けたもので、全くこの男の引き出しは何処まで多いのか。
本当に全てが同一人物の仕事なのだろうかと訝しく思える程だが、それはさて置きこのオープニングが象徴するように、本作はアップリフティングなダンス・トラックが中心になっている。

どのトラックも上音はあくまでリヴァービーで微睡むようなアンビエンスを湛えているし、M13等のKali Uchisらしいドリーミーでレトロなソウル・チューンもあるものの、只管夢見心地で睡魔を誘った「Red Moon In Venus」とは対照的で、同時期に制作された両作が対を成す作品である事は先ず間違いないように思われる。

特に基調になっているのはレゲトンで、全曲スパニッシュで歌われている(これが空耳の嵐で単純に楽しい)のも手伝って、自らの出自である中南米カリブ海をレペゼンするかのような作品に仕上がっている。
M10等は嘗てなくナスティで猥雑且つエキセントリックで、宛らオルタナティヴなラテン・ポップの覇権を巡るRosalíaへの宣戦布告のよう。
M14の陽気なサンバ/サルサはその気怠いイメージを刷新するようで、最後の投げキッスも笑えるし、方やM6のアルゼンチン・タンゴはKali Uchisのレトロ志向に良くフィットしている。

Rosalíaを手掛けるEl GuinchoとJam CityのプロデュースによるM12は、レゲトンとUKベースを混ぜ合わせたらクワイトみたいになったといった感じで、アフロ・ビーツ/アフロ・スウィングに端を発したアフロ・ポップの隆盛に触発されて、ラテン・ポップの魅力を誇示しようとした側面はあるかも知れない。 
もしそうだとしたらその企ては大いに成功を収めていると言って良いだろうし、本作で些か混沌としていたKali Uchisの作家性が確立された感がある。