Vampire Weekend / Only God Was Above Us

フィードバック・ノイズで始まる本作は、そのささくれ立った音像においてUKのポスト・パンク熱と呼応するようだ。
M6の突如として耳を劈くようなブラスや、続くM7で突出して過剰な音量で鳴らされるロウなギターの音響に何処かで聴き覚えがあると思ったらDave Fridmannがミキシングを担当しており、時折聴こえるダブ的に過剰なリヴァーブ等はFlaming Lips「Embryonic」やNumber Girl「Num Heavy Metallic」に通じるものがある。

ただアグレッシヴになったというような単純な事ではなく、例えば優雅なストリングスといった前作を踏襲するようなソフィスティケイトされた要素と、不協和音や耳障りなエレクトロニクスとの対比が表象する、ポップさと不穏さの同居が本作を通底する特徴の一つであり、それはEzra Koenigの現在の世界観を反映しているのだろう。

とかそれらしい理屈を捏ねて何とか正当化しようとしてみるものの、個人的に本作をVampire Weekendのベストだと思う理由は実のところそのソング・ライティング、要するにシンプルに曲が良いという点に尽きるという気がする。
特に間奏におけるピアノやストリングスやホーン等の豊潤な器楽音のアレンジメントは非常に洗練されている。

メロディは基本的に相変わらずメジャー・コード主体で朗らかだが、キャッチーでオプティミスティックな中にもほんの少し憂いや哀愁や切迫感が入り混じったようなリリシズムを感じさせ、それを件の音響が補強して、これまでに無い複雑な含蓄と深みを産んでいるように感じられる。
これこそ成熟と呼ぶに相応しく、成熟と老成とは違うのだという事を端的に表した好盤だと思う。