Grouper / Shade

f:id:mr870k:20211211014833j:plain

海辺で音質の劣悪な短波ラジオから流れるポップスを聴いているようなイントロにこそ未だLiz Harrisらしさがあるが、M2以降はLiz Phair「Exile In Guyville」をよりローファイにした感じにも、My Bloody ValentineLoveless」のアコースティック・ヴァージョンのようにも聴こえる。
歌に向かう傾向が顕になった前作の伴奏がピアノ中心であったのに対して、丁度アルバムの折り返し地点に配置されたM6で再びくぐもったドローン的音響を聴かせるのを除いては、ギターによる弾き語りで占められている。

オーバーダブは施されているものの、Grouperサウンドシグネチャであるリヴァーブによる声の残響は殆ど目立たない。
ほぼ唯一過剰にリヴァーブ処理されたM8はわざわざ「Basement Mix」と題されており、通常ならミックス違いを識別するのに使われる副題をそのままタイトルに用いるところには何処かGrouperらしさを感じる。

代わりに如何にも宅録的なホワイト・ノイズがアルバム全体を覆っているが、そこに作為的な感じは全く聴き取れず、音響的にはごく一般的なローファイ・フォーク以上のものは無く、ポスト・プロダクションの痕跡は殆ど見付けられない。
要するにエクスペリメンタルな要素は遂に完璧に捨象されたと言って良い。

革新性が弱まったのは否めないが、それでもネガティヴな印象は無いどころか、もしかするとGrouperの最高傑作なのではないかとさえ思わされるのは、ごく在り来たりではあるが曲そのものの良さ、特にメロディに依拠する部分が大きい。
ギミックを排する事でLiz Harrisのソングライターとしての才能が顕になったに好盤だと言って良いだろう。