M1は不気味さこそ無いがノンビートのシンセ・アンビエント的な楽曲という点で、Thom Yorkeがホラー映画の為に書き下ろした「Suspiria」を彷彿とさせる。
一転してフォーキーで穏やかなM2は「OK Computer」、特に「No Surprises」のようだし、マス・ロック的なM3は「Hail To The Thief」やThom Yorkeのソロ「The Eraser」「Anima」を思わせる。
Tom Skinnerの超絶技巧のドラミングが冴え渡るM5からは若干Geordie Greepとも共振するようなラテン・ジャズの要素も感じられ新基軸と呼べない事もないが、このバンドのアイデンティティを刷新するような目新しさがある訳ではない。
録音自体が前作「Wall Of Eyes」と同時期のものという事なので当然と言えば当然なのだが。
何れにしても何処かしら過去のRadiohead、若しくはThom YorkeとJonny Greenwoodのソロ作品/楽曲を連想させるのは、2022年のファーストのリリースから続くThe Smileの傾向で、勿論これまでの蓄積がそれだけ膨大だという事の証左でもあるのだけれども、一方で2人がそのキャリアの総括をRadioheadではなくこのバンドを通じて行おうとしているようにも映る。
それは逆説的にRadioheadというバンドが自らに課したドグマ、即ち同じ事は二度と繰り返さないという行動規範が如何に厳格なものであるかを証明しているとも言える。
(正確を期せば「In Rainbows」に多少キャリア総括的な性格は認められるのだけれども。)
何にせよThom YorkeとJonny GreenwoodがThe Smileというラフに音楽を楽しめる避難場所を見付けた事で、愈々Radioheadとしての新譜を聴くのは難しくなっているのかも知れない。