Gang Gang Dance / Eye Contact

やはりPanda Bear「Person Pitch」、そしてAnimal Collective「Merriweather Post Pavilion」を契機としてポップ志向がブルックリンを覆っているという事なのだろうか。
Gang Gang Danceのエキゾティシズムには何処かジョークと言うか記号めいた印象があったが、本作でそれは血肉化され、まるで本気でエチオピアン・ポップスを目指しているかのようだ。
発情期の狂った猫のようだったLizzy Bougatsosのヴォーカルは、ロールモデルをYoshimiから冗談抜きでSadeに鞍替えしたしたかのようなオーセンティックさすら感じさせ、その居心地の悪さときたら半端ではない。

気持を鎮めようと改めて「Saint Dymphna」を聴いていて感じた事は、何より主旋律とは無関係に唐突に挿入されるチープなシンセ音や珍妙なSEの面白さで、ボーナス・トラックとして収録されたXXXchangeによる楽曲の基軸となる音とメロディを再構築したリミックスが極めて退屈である事を鑑みても、その作品の面白味はポップ・ミュージックの「本題」とは別のところにあったように思える。

不思議な事にその点を念頭に置いて本作と対峙すると、それまで些か退屈に感じられたサウンドが全く別の表情を顕にする。
音色に殆ど変化は無いどころかむしろ音数は増え、ヴァリエーションは多彩になっている印象を受けるにも関らず各音の関連は極めて有機的で、これ見よがしなアヴァンギャルド臭は雲散霧消し完成度の高いポップスに仕上がっている。
それはまるでGang Gang Danceが単にアイデア先行のコミック・バンドではない事を高らかに宣言しているようでもある。

比較的前作の印象に近いクワイトのリズムを採用したM5等に惹かれる分裂したアンビヴァレントな気持も残りはするが、それでもこの成熟には単なるセルアウトで片付けられない重みがある。