Weyes Blood / Titanic Rising

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元Jackie-O Motherfuckerのベーシストという肩書が俄かには信じ難い程ポップ。
そのKaren Carpenterを彷彿とさせる歌声を一種のジョークと捉えればAriel Pinkと繋がるのも解らなくはないが、殊更ローファイさを売りにするような身振りはまるで無く、少なくとも表面的には諧謔性は見当たらない。

確かにM1の間奏に於ける、背景の空間が歪曲するようなノイズや、M2冒頭の奇妙に畝るシンセ音等からは、朧げに甘ったるいだけの単なるポップスではない事は伝わってくるが、それらのギミックは決して曲全体を異物感で支配するような類のものではない。
殊更にエクスペリメンタルである事を強調するでもなく、シンプルに歌と向き合う姿に好感が持てる。

その豪奢なポップネスはJulia Holterが近作で捨象したものを継承するようでもあり、確かに敢えて乱暴な括り方をするならば、アンビエント/ドローンとチェンバー・ポップの融合という意味でJulia Holterフォロワーという感覚も無くはないが、だとしても極めて優秀なエピゴーネンに違いなく非の打ち所は無い。

純粋にポップスとしての完成度が高く、ポップスの部分がしっかりしていればチェンバー・ポップも捨てたものではないと思わせる強度がある。
特にメジャーとマイナー、ネガとポジ、平凡と非凡とが入り混じったようなメロディ・センスからは微かにBurt Bacharachを彷彿とさせる瞬間があり、久々にソングライティングそのものの力を感じさせる作品である。