Battles / Gloss Drop

90年代後半のポップ・ミュージックが歴史上最も尖っていた瞬間、つまりはエレクトロニカポスト・ロックに多大な影響を受けた立場からすると、「Mirrored」はその延長線上で興奮出来たという点で、00年代というレトロなディケイドにおける殆ど唯一の希望であった。

マス・ロックという言葉は決して好みではないが、その前半部分が精密な演奏や微に入り細に入ったプロダクションを表象していたのだとすれば、本作はマスの消え掛かった「ロック」のように聴こえる。

とは言え楽曲の構成や音色等の本質的な変化は無く、強いて挙げるならば歌の比重が高くなったものの、M2に顕著であるようにそれは単に「Mirrored」の中でも取分け人気の高かった「Atlas」の方向性を継承したもののようにも思える(Gary Numanが歌うM6なんかは些か凡庸過ぎる嫌いも無くはないが)。

むしろ決定的な差異はポスト・プロダクション、特にミキシングに深く関わるものであるように思え、各音の輪郭の明瞭さが人工的な緩急を生み出していた「Mirrored」と較べて、本作の音響は非常にラフで平面的な印象を受ける。
バンドがよりロック的なダイナミズムを希求した結果がこのサウンドであれば、試みとしては成功であると言えるのだろうが、一方でTyondai Braxtonの脱退を巡るゴタゴタがポスト・プロダクションに掛ける充分な時間を奪ったのではないかと邪推もしてしまう。

「Mirrored」の圧倒的な完成度に較べれば見劣りする感は否めないが、結果的にそのラフさが故に「Mirrored」には無いポップネスやフレンドリーさもあり、確かにBuffalo Daughterの近作なんかに共通する感覚もある。
Kazu Makinoが歌うM8なんてもうそのまんま。