Julia Holter / Aviary

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瓦解寸前のジャズ・アンサンブルの持続のようなカオティックなオープニングは、前作「Have You In My Wilderness」収録の「Vasquez」に於いて試行されていたアイデアの拡張にも思える。
特にこれまでのJulia Holterのイメージからするとやや意外な程の声量を以って張り上げられる歌唱と、そのリヴァーブによる伸長には、一枚壁を突き破ったような印象さえある。

集中的聴取を拒むように歌も演奏も随分とアブストラクトになり、豪奢なチェンバー・ポップは再び前景化したアンビエント/ドローン的意匠に包まれて、前作まで数作続いた表面上の耳障りの良さやアクセシビリティは完全に捨象されている。
それらの実験性は勿論これまでの作品でも散見されたものの、ここまでアルバム全体に通底するのは初めての事で、エクスペリメンタリストとしてのJulia Holterの姿がこれまでで最も明瞭に浮かび上がってくる。

楽曲を構成する音色に然してドラスティックな変化は無いにも関わらず、そのような印象をコントロールする事の出来るコンポジション能力はやはり特筆に値する。
本作のそのある種のアヴァンギャルドな印象の源泉は第一に拍の取り辛さにあるようにも思え、明確なリズムとポップスの構造を持った楽曲の多かったここ2作とは対照的にノンビートが多く、あったとしても歌と様々な器楽音が噛み合う瞬間は滅多に訪れない
(が故に散発的に訪れるその瞬間が確かなフックになっている)。

器楽音主体という違いはあるものの、「Ekstasis」の頃への揺り戻しも感じさせ、M5やDisc2-M3等のシンプルなピアノと歌、そしてそれらの残響が織り成すアンビエント・フォークには、Grouperの近作にも通じる感覚がある。
一楽曲に於ける組曲のような曲調の変化は最近良くある傾向で、例えばOPN「Age Of」等にも同調しているように感じられ、様々な方向に拡散した10年代のアンビエント/ドローンが、形を変えて再び同じ場所に帰着するような想像をさせたりもする。