Wilco / The Whole Love

Glenn Kotcheの巧みなドラミングが電子ノイズと共に重厚なストリングスに飲み込まれるイントロから、グルーヴィなベースラインが加わってミニマルに進行する中盤を経て、最終的にはロックンロール・インプロヴィゼーションへと雪崩れ込むM1のアーティさは宛らRadioheadのようだが、そこはWilco、必要以上にテクニックや実験性をひけらかすような真似はしない。
続くM2では跳ねるような16ビートと高らかに鳴り響くユーフォリックなオルガンが、M1はちょっとしたジョークでしたとでも言わんばかりに表情を緩ませる。

以降はいつものWilcoサウンドが展開されるが、勿論ただ単にポップなだけではない。
マルチ・インストゥルメンタリストの集団らしい多彩な音色に豊潤なアレンジメント、クラシカルなソング・ライティングを損なわない程度に慎ましやかで、これ見よがしなところはまるで無いがアイデアに富んだノイズ、装飾音等は確かにJim O'Rourke「Insignificance」やLoose Furを思い起こさせる。

それらは演奏力に長け豊かな音楽的知識と経験に裏打ちされた、ただ自己顕示欲だけが薄れた余裕ある大人の(オルタナティヴ・)ロックで、R.E.M.が居なくなってもSonic Youthが歩みを止めても尚、ロック・ミュージックを聴くに充分な理由がここにはある。