Bon Iver / Bon Iver

2011年に余りにも評判に良かった本作を聴いてみたいと思った契機はJames Blakeとのコラボレーションだったが、幾重にもレイヤーされたファルセットのヴォーカルと、シンセサイザーやスライド・ギターにホーンやストリングス等の要素がエコー/リヴァーブ処理でコーティングされて渾然一体となった音像には、確かに「James Blake」に通じる内省性もある。

ただベース・ミュージックの範疇を大きく逸脱していたとは言え「James Blake」のサウンドが依然として低音域に特徴を持っていたのに対して、Bon Iverのサウンドは高音域への拘りが顕著で、密室で鳴り響くような前者に対して、本作にはまるで天上から降り注ぐような開放感がある。
それは勇壮で時にユーフォリックですらあり、「James Blake」がゴスペルならこちらは差し詰め讃美歌と言ったところか。

ソング・ライティング、特にメロディ・センスに於いて確かに突出した才能を感じさせるが、プロダクションの面ではアヴァン・フォークとチェンバー・ポップを足して割ったような内容で、ゼロ年代から続くアメリカン・インディのスタンダードから大きく外れるものではない。
敢えて挙げるならば、シンセサイザーに情感溢れるエレクトリック・ギターとサックスが絡む、宛ら80年代のAORのようなM10が異質ではあるが、そこにAriel Pinkみたいな諧謔性は一切無い。

単なる好みの問題でしかないが、Animal Collectiveの「Grass」や「Summertime Clothes」、The Flaming Lips「Race For The Prize」、またはMGMT「Time To Pretend」といった自分が惹かれるユーフォリアは、常に冗談臭さや悪ふざけと表裏一体で、その生真面目さが故に我を忘れて本作に浸る事に抵抗感を覚えてしまうのもまた確かではある。