James Blake / Assume Form

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アルバムはUSのブラック・ミュージック界隈で引っ張り凧の現況を反映している。
Metro Boominと組んでそれぞれ(「Astroworld」に於ける客演へのお返しとばかりの)Travis ScottとMoses Sumney(James Blakeのカバーを契機にキャリアが始まったMoses Sumneyにとっては、念願のコラボレーションだろう)を招聘したM2とM3は、如何にも人気トラップ・プロデューサーとのコラボ風で、悪く言えば凡庸(ビートは丸ごとMetro Boomin任せだろうか)。
Travis Scottのフロウは人の作品でも相変わらずワンパターンで退屈で、対照的にアルバム中最も上がるのは、M8の4/4のキックとキレの良いクラップのアップリフティングなビートに乗った、Andre 3000のリニアで密集したラップだったりもする。

とは言え決してヒップホップばかりに目配せをした作品という訳でもなく、アルバムを通じてストリングスを始め、本物かシンセかはさて置きハープやヴィブラフォンにパイプ・オルガンと言ったピアノ以外の器楽音の存在感が増して、初期のゴスペルからチェンバー・ミュージックに接近した印象を受ける
(何処かBjörkを思わせる瞬間もある)。

但し残念ながら自身がミキシングに携わったOPN「Age Of」のようにクラシカルな音色を新奇に響かせる事に成功しているとは言い難く、M9後半のストリングス等は寧ろありきたりなイメージを喚起させる。
James Blake特有の独特の倍音を含んだシンセ音は唯一M7冒頭で聴かれる程度で、アルバムを通じて過剰な音響は一切無く、稀代のサウンド・エンジニアとしての仕事振りを期待する向きには些か欲求不満が残る内容ではある。

ソングライティングは前作で完成された感があるが、本作の特に後半のメロディは牧歌的で若干ユーフォリックですらあり、嘗ての身震いする程に寒々しい孤独なゴスペルは何処へやら、余程私生活が充実しているのだろう等とついつい下世話な事を考えてしまう。
新しい恋愛の影響は本人が認めるところだが、M5の女声ヴォーカルとのデュエット等は(この娘が相手なんじゃないか等とまた下世話な妄想が頭を過る程)如何にも男女の親密さが滲み出るようで、セカンドの時期のWarpaintのメンバーとの恋愛を振り返ると、1作置きに素顔を晒したジャケットと、何処か捉えどころが無く散漫な印象のサウンドを繰り返す癖と、恋愛の関係が偶然には思えなくなってくる。
満ち足りた気分が大胆で挑戦的にさせるという事なのか、或いは単に浮き足立ってしまうだけなのか。