Moses Sumney / Aromanticism

ファルセットのマルチ・レイヤーによるポリフォニークワイアを想起させるという点では、レーベルメイトであるBon Iverに通じるものがある。
或いはピアノをギターに持ち替えたJames Blakeといった表現も浮かんでくる。
ギターのアルペジオを基調に据えたフォーキーなサウンドとストリングスやファルセットの組み合わせがRadioheadみたいに聴こえる瞬間もあるし、R&Bからチェンバー・ポップへの接近という見方をすれば、「Dirty Projectors」と逆方向のアプローチと言う事も可能だろう。

アンビエント × ゴスペルといった趣のM9に象徴されるように、全編を通じてビートは慎ましやかでボトムは軽く浮遊感さえ漂っている(何せM4まで一切ビートが入ってこない)。
確かにアンビエンスの導入は昨今のオルタナティヴR&Bの主要な特徴の一つではあるが、それにしてもコンテンポラリーR&Bにとってのアイデンティティのようなものである筈のヒップホップの要素は皆無と言って良い。

やはりRadioheadを想起させるM4はしかし、中盤を過ぎた辺りでドラム・ブレイクを合図に洒脱なローズ・ピアノが鳴り始め、Thundercatのベースが躍動し、急激にスピリチュアル・ジャズに接近する。
続くM5では、アルバム中随一のアップリフティングなキック・ドラムや勇壮なブラスから、The Cinematic OrchestraJaga JazzistにJames Blakeが客演したら、といった妄想を掻き立てられたりもする。

James BlakeやRadioheadに、00’sのインディ・フォーク/チェンバー・ポップから、90’sのヨーロピアン・ニュージャズにコンテンポラリーなウェスト・コースト・ジャズまで、実に多様なイメージを結合するようなサウンドで、それがSoundCloudから現れたLAの黒人青年の手によるものだというのが如何にも現代的で、またしても新しい感性の登場を実感する。