Lotus Plaza / Spooky Action At A Distance

古く天井の高い教会で幾重にも反響するパイプオルガンの音を聴いているようなユーフォリックなイントロで始まる本作は、Deerhunterが二つの才能で成り立っている事を明らかにしている。
ベースラインこそやや単調な嫌いはあるが、クラウトロック的な反復にギター・ストロークが織り成すリズム、ウェット過ぎずドライ過ぎもしない適温で好ましいメロディ等からは、バンドに於けるLockett Pundtの役割の大きさを思い知る事が出来るし、M9等には「Halcyon Digest」でDeerhunterが失ってしまった疾走感も生き長らえている。

「Parallax」に於いてヴォーカルを前面に押し出すプロダクションを採用したAtlas Soundとは対照的に、周縁から聴こえてくるような歌声や重層的なギター・サウンド、シューゲイズ風の残響処理には、My Bloody Valentineの影がちらつきもするが、ソング・ライティングの面でもプロダクションの面でもその才能がAtlas Soundに較べて劣っているとは決して思わない。

ただBradford Coxの楽曲が醸し出す過剰さ、例えば鬼気迫る程の怠惰さや強烈なデカダンスに較べると、良くも悪くも均整が取れていて突出したものを感じないのも確かで
Bradford CoxがDeerhunterに居なかったならばきっと
ニューゲイズの一端として埋没していただろうとも思ってしまう。

技巧・技術や聴取経験・知識或いは発想力といったものでは説明の付かない、凡そ音楽的でない、例えばパーソナリティといったものが音楽の受容に及ぼす影響力を
(簡単に認めたくはないが)思い知らされる心持がする。
良くも悪くもそれがポップ・ミュージックというものでもあるだろう。