Black Dice / Mr. Impossible

宇川直宏のシンボリックなジャケット・デザインは「Super Are」以降のBoredomsの音楽と密接にリンクしていたが、それ以前の山塚アイによる、大竹伸朗の影響を感じさせる、独自の審美眼によって切り抜かれたモチーフを文脈等度外視して一見荒唐無稽に、けれども天賦の才としか言いようの無いポップ・センスを以てペーストしたアートワークも、そのままそのサウンドに当て嵌める事の出来るものだった。

山塚アイにも通じるジャケットを披露してきたBlack Diceは、そのサウンドに於いても90年代後半以降のBoredomsが捨象したサウンドのデザイン性を継承する殆ど唯一の存在に思えたが、これまでの作品が「Super Roots」シリーズだとするなら、本作は(まさかAnimal CollectiveやGang Gang Danceに感化されたという事は無いと思うが)「Chocolate Synthesizer」に喩えてみたくなるポップネスを有している。

ノイズがノイズでなくなったような音そのものに対するフェティシズムは相変わらずだが、単調さを美徳とするようだった過去の作品が嘘のように、反復の中にも音楽的な展開があり、それなりに多彩でアイデアに富んだリズムにはそんな引き出しがあったのかと驚かされたりもする。

唐突にディスコティックなビートが挿入される曲もある割には、不思議とここまでリズミックであるのにダンス・カルチャーと接点が一切見出せない音楽というのも今時珍しく、本作が「Chocolate Synthesizer」なら次は「Super Are」か、なんて妄想も有り得なさそうではあるが、だったら1994年の時点でBoredomsのドラスティックな変化を予想出来たかと言うと、誰も予想だにしなかったからこそ面白かったと言う意味では、今のBlack Diceの予測不可能性もかなり面白い。