Deerhunter / Why Hasn't Everything Already Disappeared?

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冒頭のハープシコードに始まりこれまでのDeerhunterの作品の中で最も鍵盤楽器類の存在感が際立っている。
レトロ・フューチャー感満載のシンセとマリンバによるラウンジ調が「Moon Safari」の頃のAirみたいなM3等、特にシンセ使いは特徴的だが、「Fading Frontier」に於けるアンビエント的なそれと言うよりもアナログな響きを有していて、よりリズムやメロディに直接寄与している。

マリンバが奏でるアルペジオとサックスに淡白なドラムマシンと女声(或いはメンバーの誰かのファルセットか?)コーラスが絡むM8やM5の間奏やアルバム最後の長いアウトロで聴かれるリニアなドラム・ビートに乗せてピアノやギターやマリンバが奏でるポリリズムからはBradford CoxのStereolab愛がこれまでで最も判り易く表出しており、Deerhunter版のアヴァン・ポップ・アルバムと呼べそうな雰囲気がある。

曲調は「Halcyon Digest」に最も近いが、強烈な死の存在感は雲散霧消し、もっとレイドバックしていて、憑き物が取れたかのようにオプティミスティックな雰囲気さえ漂っている。
軽さという面では寧ろ「Monomania」に通じるようにも感じられるが、トラッシーなフィードバック・ギターはM1の後半に現れる程度で、相対的にギターの存在感は薄れ、アトモスフェリックな使われ方に終始しており、一般的なロック・バンドにおけるギターと補助楽器の主従関係は逆転している。

ドラスティックな変化はないが、しかしどのアルバムも確かに異なる表情や特徴を持ち、しかもその時々のトレンドとは全く関係が無いという、言うのは簡単だが実行するのは至極難しい稀有なキャリアを築いてきたという点で実はDeerhunterこそが誰よりも軽やかに飄々と2010年代をサヴァイヴしてきたロックバンドだと言っても良いのではないだろうか。