Oneohtrix Point Never / R Plus Seven

本作で「歯医者の治療音とその場に流れるBGM」というOneohtrix Point Neverのコンセプトは完成を見たと言って良いだろう。
「Returnal」のアンビエンスの叙情と「Replica」に於ける微細で断片的なサンプリング・ループの諧謔はここで完璧な融合を見せている。
ミュージック・コンクレートやノイズ、アンビエントから、果てにはGames〜Ford & Lopatinに於けるシンセポップに至るまでのDaniel Lopatinの作品に散在してきた要素が渾然一体となって、最早カテゴライズ不能な音楽を創出している。

心なしかメロディにニューエイジ色が復活しており、「Instrumental Tourist」に於いてTim Heckerの要素として認識したセンチメンタルな旋律は、実はDaniel Lopatinのものだったかも知れないと思わされる。
オルガンやカットアップされた聖歌隊の如き音色が齎す美しさや崇高さは新しい宗教音楽のようで、Vampire Weekendを例に出すまでもなく、近年のポップ・ミュージックに於ける宗教的なモチーフ・音色の存在感の増大を想起させる。
3.11後に特にアメリカから祈りにも似た表現が頻出した事を思い出し、現在またそのようなものが希求されている、などと単純に片付ける気は毛頭無いし、少なくともDaniel Lopatinが社会を背負うとはとても思えない。
聖俗入り乱れた、と言えば簡単だが、神々しく荘厳で美しいシーケンスが屑同然のチープなSEやサンプリング・ソースのカットアップやノイズに穢されている様は寧ろ破戒的なイメージを喚起する。

音そのものへのフェティシズムは希薄で物によってはチープですらある。
リズムに於いてもメロディに於いても破綻は無く、所謂電子音響とは異なり極めて音楽的で、我々が知っている音楽とは何かが少しずつ、だが決定的に違っているという意味で猛烈な既視感と違和感とが共存している。
最早アンビエントともミュージック・コンクレートとも違う、何と呼べば良いのか皆目解らない音楽が展開されており、前作がデュシャン的だとすれば本作は正に(ジャケットが表象するように)シュールレアリスティックである。

特に大仰なシンセリフや無垢なコーラス、荘厳な器楽音と歪んだ電子音等が入り乱れるM9からM10へと続く本気とも冗談とも付かない唐突で支離滅裂な展開は圧倒的で、このような音楽がWarpによってより広範にポップ・フィールドに配給される事には久々に興奮を覚える。