Factory Floor / Factory Floor

何処を切っても反復、反復、反復、リズム、リズム、リズム…。
メロディ的な要素は皆無、いや複数の音階を持つ音が連続している時点で更には大体歌(?)さえ含まれているのだからメロディが無い筈はないのだが、特定の感情を喚起するような意味でのメロディはここには全く存在しない。
それどころかインダストリアルという言葉が惹起する不穏さも無ければ、重金属的なノイズさえ殆ど聴こえない。
日本版のボーナス・トラックにはRichard H. Kirkによるリミックスが収められているが、全ての贅肉と人間性を削ぎ落としたかのような本編に較べれば年老いた元Cabaret Voltaireの方が未だ幾らか愛嬌がある。

バンド名の通り反復する工場のラインの光景が良く似合いそうな音楽を聴いている内に自分が機械になったかのような(正にマン・マシーン的な)感覚に陥るという意味でKraftwerkの遺伝子を感じさせ(M8なんてもろに)、TB-303(風)のベースラインが想像させるアシッド・ハウスの影響(昔のAphex Twinを思わせるトラックもある)はBuffalo Daughterを連想させたりもする。
但しBuffalo Daughterがミニマルに音を重ね遷移させながらクライマックスを目指したのに対して、Factory Floorの音楽に於ける反復に目的地は無い。
そこには熱狂も無く、ビートとシンセのフレーズと覇気の無いヴォーカルが関係性を変えながら冷淡に、平坦に続いていく、そのクールでドライな様に痺れが来る。

バンドがDFAと契約したというニュースを聞いた時には些か腑に落ちない心持もしたものだが、このシンプル極まりないサウンドに加えCabaret VoltaireThrobbing GristleNew Order等の偉大なる先達とのコネクションを鑑みれば、90'sリヴァイヴァルの一環としてのネオ・インダストリアルとしてよりも遅れてきた正統派ポスト・パンク・リヴァイヴァリストとして捉える方がすんなり合点が行く。

退行的と言えば退行的だが、未来や進歩に対するニヒリスティックで退廃的なセンスは充分刺激的だし、デビュー・アルバムにして果敢にストロング・ポイントであった筈のノイズ・ミュージックの要素を排除するというこの老成、初期衝動の超克は実に魅力的に思える。
しかしKraftwerkにしろNew Orderにしろ、嘗て未来的なイメージを喚起した筈の音の参照が、現在では寧ろある種アンチ・フューチャリスティックに響くというのは実に面白い。