Brian Eno / The Ship

Aphex Twin「Selected Ambient Works Volume II」に出会った頃には自分がこれほど頻繁なアンビエントのリスナーになるとは考えてもみなかった。
エレクトロニカの時代にはFennesz等の「Editions」が付く前のMegoのリリースやMouse On Mars周辺のOval等によるノンビートものも良く聴いていたが、所謂電子音響としての受容であって、アンビエントとは捉えていなかったと思う。

不思議と声高に言われる事は少ないよう思えるが、アンビエントのポップ化・大衆化はこのディケイドにポップ・ミュージックに起こった最も重要でドラスティックな変化の一つではないか。
そしてOneohtrix Point NeverやEmeraldsとの遭遇を契機にして遂に御大Brian Enoに辿り着くに到ったというのは、リスニングの個人史に於いて割と重要な出来事に思える。

声の多用と更には歌への接近というのはJulianna Barwick然り、OPNの近作に於けるオート・チューン的な要素然り(尤もOPNはアンビエントから逸脱した印象だが)近年のアンビエントに於ける一つの特徴であるが、本作のヒプノティックなスポークンワードが徐々に歌へと発展してゆき、最後にはThe Velvet Undergroundのカバーという純然たるポップ・ソングに行き着く展開は、このアンビエントからポップスへの移り変わりを象徴するようだ。
歌に加えてこれまたコンテンポラリーなアンビエントに顕著な、M2の重厚なオーケストレーションや不穏なストリングス、M3でスポークン・ワードに寄り添うピアノ等の器楽音の導入は、同様にポスト・クラシカルやチェンバー・ポップへの接近を実感させる。

これは言わばアンビエントのオリジネイターが宛ら「Music For Airports」からJulia Holterへと至る変容の過程を表現したような作品だと言っても良いかも知れない。
そしてこの変容に従って「聴いても良いし聴かなくても良い」という元々のアンビエントのコンセプトはすっかり捨象されている。
本人の企図があろうが無かろうが、そのようなある種の自己否定/批評の精神こそがBrian Enoが長きに渡りポップ・ミュージックに於けるパイオニアとして君臨してきた理由の一つに違いない。