Liars / Mess

前作に引き続きエレクトロニクス主体のサウンドには、「Wixiw」で多少感じられた不馴れさ故の歪さが見事に無くなり、流暢なエレクトロニック・ダンス・ロックが全編に渡り展開されている。
エレクトロニック・サウンドは血肉化し、面妖でいなたいヴォーカルが辛うじてポスト・パンク・リヴァイヴァルの面影を偲ばせるが、特にイーヴン・キックのビートがノンストップで繋がれる冒頭の数曲では、ヴォーカルは最早ビートに従属し、旧来のポップ・ソングのフォーマットは殆ど捨象されている。
インストのM7なんかはテクノそのもので、最早ロック・ミュージックの影さえ無い(勿論Liarsらしいいなたさは拭い切れないが)。
一言で言うなら要するに熟れている、がそれ故に一切引っ掛りも無い。

この10余年、ロック・ミュージシャンがエレクトロニック・ミュージックに感化される例を腐るほど見てきたが、トレンドを採り入れた云々するにはタイミングが遅過ぎる事からも、Liarsのエレクトロニック嗜好に戦略的なあざとさは微塵も無く、それこそ新しい玩具を渡された幼児のような純粋な好奇心の発露なのだろうと想像する。

ロック・バンドのフォーマットでの曲作りからサンプラーシーケンサーを使ったコンポジションへの移行に、単なる制作環境に留まらないドラスティックな変化や新鮮な驚きがあるのは良く解るし、アイデアが止め処無く溢れ出るような充実した状況も想像に難くないが、それにしてもこの古臭さはどうにも…。

ロックもテクノも予め当たり前に用意されていた世代による屈託の無い、生音も電子音も分け隔てないコンポジションが主流になりつつある現在では、旧世代によるエレクトロニクスへの覚醒もコンプレックスも何処か滑稽で悲しい。