St. Vincent / Masseduction

アタックの強いエレクトロニックなビートの導入によって、まるでゴスの要素を取り除いたNine Inch Nailsみたいな楽曲が並んでいる。
最近Nine Inch Nailsの事を連想する機会が多いような気がするのは、まさかポップなレベルでインダストリアル・リヴァイヴァルが浸透した結果なのだろうか。
ともあれM2のリズミックなヴァースはM.I.A.のようでもあるし、M4のエレポップはOorutaichiの2011年作を想起させたりと、一言にエレクトロニックと言ってもそのスタイルはそれなり幅広いが、ビート・プロダクションも音色も凡庸で控え目に言っても古臭い。

一方でSt. Vincentを数多の同時代の女性アーティストから浮き立たせてきたその代名詞とも言えるギターの存在感は相対的に薄れてはいるものの、時折現れる大仰なエレクトリック・ギターの音色とエレクトロニクスの組合せからLiars「Mess」を思い出したりもする。
M9〜10の流れは昔ながらのスタジアム仕様のエレクトリック・ロック風でもあり、散見されるオーケストラルなアレンジとビッグなプロダクションも加わって
インディ・ロックの枠を大きくはみ出した印象を受ける。

巧みに要所を抑えたソング・ライティングからメロディ・メイカーとしての才能は疑いようが無いが、大味なマキシマリズムに若干引いてしまわないでもない。
その分ソングライターとしての優秀性が存分に発揮された、ピアノとスライド・ギターによるシンプルな弾き語りのM6等には安心感を覚える。

こういったシンプルな楽曲で丁寧に綴られる歌声の、特に低音域は猛烈にLiz Phairをフラッシュバックさせる。
更にそのメロディ・センスには何処となくVeruca SaltのLouise Postを彷彿とさせるものがあり、連想させる名前からも遅れてきたオルタナ・クイーン感が満載で個人的にはほくそ笑んでしまうものの、多数のメディアの年間ベストにリストアップされる程に2017年の音楽として有効かと言うと、ちょっと首を傾げてしまう部分もある。