Shintaro Sakamoto / Let's Dance Raw

坂本慎太郎がそのキャリアを通じて、ここまで「日本」や「社会」に言及した事はなかった。
嘗て「空洞です」と歌った男が「それはいる」と歌わざるを得ないほど、この国の現状は深刻だという事だろう。

けれどもスリリングな言葉にのみ耳を傾けているとこの作品の肝要を捉え損ねる事になる。
寧ろそのような問題意識が、決してストレートにではなく、実に捻くれた形で音に表れている点にこそ本作の面白さはあるように思われる。
Disk2にわざわざ全曲がインストで再録されているのはつまりそういう事、とまでは言わないが。

前作のAOR路線を引き継ぎつつも、それと較べて仄かにアッパーで空恐ろしい明るさが本作にはある。
音楽的なスタイルは継承しつつも明らかにテンションが違うとでも言うか。
タイトルに象徴されるように、全編を通じて曲の基調を成すグルーヴィなベースラインとタイトなドラミングが支えるダンサブルなリズム、シニカルな笑いを助長する能天気なバンジョーやハンドクラップ、諧謔的な変調された声等の要素は、絶望的な現在で明るい未来を喧伝する人々に対するアイロニーのようにも響く。

中でも本作に於いて最も特徴的なのはレイドバックしたスライドギターの音色で、苛立ちや憤りを例えば解り易いファズではなくスライドギターを用いて表現するという点に、坂本慎太郎という表現者のクレバーさが垣間見える。