Beck / Morning Phase

荘厳なストリングスや如何にもBeckらしいアコースティック・ギターのコード進行、ヴィブラフォン等の音色は正に「Sea Change」そのもので、6年振りの新作に相応しい刺激は一切無い。
ヴォーカルへのオーバーダブやエコー処理がやや強めで、使用される楽器の幅もより多彩な印象はあるけれど、アコースティック・ギター主体のトラディショナルなソングライティングによるBeckのフォーク・ミュージックサイドの作品の範疇の想像を超える要素は皆無と言っていい。

スパンこそ空いたものの、本作は「Modern Guilt」に対応するものであろうが、メインサイドがロック・ミュージックに寄った事で「Midnite Valtures」に対する「Sea Change」、或いは「Odelay」に対する「Mutaions」ほどの鮮やかなコントラストもここには無い。

それでも尚、Beckオルタナティヴとオーセンティックを交互に繰り出すルールに固執するのは、彼が本質的にはフォーク・シンガー・ソングライターである事の証左であるかも知れない。
「Loser」に於けるスライド・ギターのループが他者から齎されたアイデアである事や、「Odelay」に於けるDust Brothersの存在、そして近年様々なアーティストを招いて繰り広げられるセッションを想起すれば尚更その確信は強くなる。

とは言えソングライティングにフォーカスした作品という意味では全然悪いアルバムではない。
欧米のメディアはPitchforkを除き本作に高い評価を付けているが、その事は2002年の「Sea Change」こそがBeckのキャリアに於ける最高傑作であるという欧米に於ける一般的な認知と無関係ではないだろう。
一方で「Odelay」や、もっと捻くれて「Mellow Gold」こそがBeckであるという自分のような極東のオルタナ世代にとっては、Beckとはオルタナティヴを体現する存在でもある。
ここで言う「オルタナティヴ」とはグランジを始め、パンクやインディ・ロックと殆ど同義のそれではなく、Beastie Boys「Check Your Head」を契機とした多様なジャンルを採り入れた折衷的なスタイルの総称であり、そのような立場からするとBeckの新作とは何よりも先ず「次に何を借用するのか」という点が重要であったという意味で、Beckとは常に変化を宿命付けられたアーティストだと言える(似たような事はRadioheadにも言えるだろう)。
そして本作の如何なる変化も放棄したようなサウンドは、その不毛なゲームからのドロップアウトを高らかに宣言しているようにも感じられる。