Ariel Pink / Pom Pom

ラジオと言うより80'sのMTVをブラウン管のテレビのスピーカーで聴いているようなくぐもったローファイな音像、珍妙で古臭いSE、馬の嘶きに間抜けな掛け声やナンセンスなコーラス、唐突なテンポアップ&ダウン、成熟すら感じさせた「Mature Themes」から一変、諧謔性が爆発しており、「Before Today」への揺り戻しも感じさせる。

途中から表情を弛緩させた「Mature Themes」と同様に、中盤に入ると更にその諧謔は加速する。
AORは勿論、The BeatlesやKinksを思わせる60'sポップから、The Beach Boysを小馬鹿にするようなM8、オリジナル・パンク調のM9にM11のポップ・パンク、Creamみたいな似非ブルース・ロックが胡散臭いファンタジーに変貌するM12、ゴースト・バスターズのテーマみたいなシンセベースのエレポップM13、極め付けはラーガ・ロック調の旋律に始まり、カズーの音色が印象的なカートゥーン風に急展開するM10等、全く脈絡が無い。

Ariel Pinkのヴォーカルはどの曲でも人格が変わったかと思わせる程、スキゾフレニックにキャラクターを演じ分けていて、鼻に掛ったいけ好かない声で歌い上げられるM15では、あろうことかRivers Cuomoを彷彿とさせる瞬間もある。

何れの曲の何れの瞬間も何処かで耳にした事があるような既視感が半端なく、全てはインチキで紛い物には違いないが、その音楽的語彙の豊富さは単に一笑に付せる代物ではなく、分裂症のB級に留まらせない類稀なソングライティングの能力とポップセンスには畏怖の念すら覚える。