Floating Points / Elaenia

2015年は嘗てポスト・ダブステップと呼ばれたシーンにとって総仕上げの年となった。
フルレングスを待望され続けた3人 - Untold(これは2014年だが)、Pearson Sound、そしてFloating Points - が方向性は三者三様なれど、いずれもガラージからもベース・ミュージックからも遠く離れダンスフロアに背を向けたことで、本当の意味でポスト・ダブステップが完結した年として記憶され…すらしないかも知れない。

微細にカットアップ&変調されたサックスやエレクトリック・ピアノに、左からカットインして染み渡るように全体に拡がるシンセとグルーヴィなベースラインが徐々にその振動を強めながら加わってトラックの体裁を整えていくM1は、紛れもなく2015年最高のオープニングの一つ。
続く長尺のM2の奔放なエレクトリック・ピアノと生ドラムによる、Flangerを彷彿とさせる精巧なエレクトロニック・ジャズが荘厳なストリングスを迎えてスピリチュアルに展開する様は、近年最も待望されたデビューアルバムの導入部として申し分無い。
シームレスに繋がるM6〜M7は次のハイライトで、M8のピアノの独創と超マイクロ・グリッチ/クリック・ノイズには、昔Aphex Twinが「Drukqs」で試みたのとは比べものにならない雄弁な含蓄がある。

生音主体であるものの録音をストレートに聴かせる瞬間は一時足りも無く、特殊なフィルターを通したような一音一音が極限まで拘り抜かれ研ぎ澄まされた音響が素晴らしい。
ビートに至るまでの殆どのエレメントが器楽音で構成されているという面ではオルタナティヴ・ジャズに分類するのが妥当という気もするが、徹底したエディット(それは紛れも無く極めて電子的な行為である)によって、生音で構成されたエレクトロニック・ミュージックという一見矛盾したコンセプトが見事に体現されている。

DJとしてのFloating Pointsに期待するフロア向けのハウス・トラックは皆無で、充満した期待を痛快なほとあっさりと受け流す内容は「James Blake」を思い出す。
しかし音響の過剰さが強烈な印象を生み出した「James Blake」とは異なり全てが程よく洗練・抑制されていて、単にBGMとしても機能する分聴き流すには退屈だが、耳を凝らすほどに驚異的な音響が立ち上がるという点に於いて完全なるリスニング・アルバムであり、本作によって今後どのような方向にも表現を拡張し得る自由を手に入れたという意味で、静かだが偉大なる第一歩だと言えよう。