Joanna Newsom / Divers

基本的には新しいアイデアやコンセプトに寄った作品ではなく、多彩な器楽音が入れ替わり立ち替わりに現れるM1、M2等は前作を踏襲するバロック・ポップだが、その後のほぼ交互にハープとピアノがリードを交代しながら同時に周辺の装飾音のユニークさを際立たせるプロダクションは、多少なりともフリーク・フォークへの揺り戻しを感じさせもする。

1曲に詰め込まれる楽器の数こそやや落ち着いたものの、とにかく様々な楽器を使用する事に対する欲望は相変わらずで、特に本作ではM3のファズの効いたエレクトリック・ギターのようなメロトロンを筆頭にシンセの音色の目新しさが耳を引く。
M9等はセットアップをころころと変えながらシンセサイザーで遊んでいる感じが、玩具を与えられた子供のような好奇心の発露を聴いているようでこちらの心も踊る。

M8に於けるバンジョー低周波の電子ドローンめいたミニムーグ、M4のハープシコードとスライドギター、M6のピアノの独奏と深くリヴァーブの掛かったソー等々、多彩な音色とその組み合わせの妙が飽きさせず、これほどクレジットを眺めるのが楽しい音楽もなかなか無い。
初めて自ら担当したミキシングも各音の個性を巧く引き出す事に成功しており、器楽音に対する相当なフェティシズムを感じさせる。

一方でM1の多層的なストリングスの叙情性や、M3の8ビートのドラムが醸し出すロック風のダイナミズム、M5に於ける印象的なハーモニー等からは、これまでのJoanna Newsomとはちょっと違う開けたポップネスを感じもする。
ソングライティングがコンパクトになり、循環構造がより明確になる事で、改めて過剰なヴィブラートや低音とファルセットを自由自在に切り替える独自の発声・歌唱の特異性が浮き立つ感もあり、新鮮さには乏しいが、安定した存在感を再認識させるような作品である。