Bonobo / Migration

何とロマンティックなオープニングだろうか。
ジャズとエレクトロニック・ミュージックのバランスはFloating Points「Elaenia」を彷彿とさせるが、ピアノやストリングス等の生楽器と電子ノイズやシンセ・シーケンスが混濁した幽玄な音像は「Elaenia」の驚異的に立体的で、緻密な音響と較べると精巧さに掛けはするものの、臨場感があり、M9等の勇壮でいてエレガントな管弦楽器の響きにはThe Cinematic Orchestraに通じる感覚もある。

ダンス・トラックにこれと言って物珍しさは無いが、Mount Kimbieにも通じるオーガニックな質感の2ステップのM3はアルバム前半の魅力的なフックになっている。
中盤から後半に掛けて畳み掛けるように続くフロアライクなトラック群の生音混じりのメロウネス/ポップネスからはGold PandaやDorian Conceptが想起されるが、そこに稚拙さや単調さは全く無く、ベテランらしい機能的で起伏に富んだ展開の熟練度が際立つ。

ロッコのグナワをフィーチャーしたM7や、スパニッシュ・ギターのアルペジオがエキゾティシズムを醸出するM8、M12のセンチメンタルなストリングスのメロディ等、旅をテーマにしたアルバムならではのバレアリックなムードが横溢しており、猛烈にChari Chari「In Time」がフラッシュバックして、得も言われぬ懐かしさに包まれる。

M10のメランコリックなハウスはFaltyDLやJamie XXのトラックを思い起こさせるという意味でフューチャー・ガラージっぽくもあり、決してアップ・トゥ・デイトとは言えないまでも、取り分け古臭いという訳でもない。
とにかくポップで完成度の高いアルバムだと思うが、個性らしい個性が見当たらず、聴き終えた後に何も残らない感じが実にNinja Tuneらしい。