Radiohead / A Moon Shaped Pool

先ず何よりもJonny Greenwoodの課外活動を反映した、ストリングスの大胆な導入によるバロック・ポップへのアプローチは特筆すべき点あろう。
前作のリファレンス・ポイントがUKベース・ミュージックにあった事を思い起こせば、Bjorkとまるで同じ軌道を辿っているようにも思えてくる。

ピアノもまた本作のトラックをリードする重要な要素ではあるが、「Kid A」 / 「Amnesiac」に於けるCharles Mingusの影響著しいそれを思い起こさせるし、意外にもギターは全編に渡り一定の存在感を保っており、何処か「Hail To The Thief」をフラッシュバックさせる瞬間もしばしばある。
「OK Computer」を彷彿とさせるエレクトロニクスやリヴァービーな残響処理や、前作同様のリズム・セクションが先導するクラウトロック的な反復等には貫禄が漂うが、Radioheadサウンドの想像の範囲内に留まっておりこれと言った新鮮さは無い。

それでもやはり本作を「In Rainbows」のような集大成的な作品として認識するのを押し留めているのは、荘厳なオーケストレーションクワイアのようなコーラス等の、どちらかと言えば2000年代以降のRadioheadが忌避してきたような大仰な要素であり、楽曲毎のミニマリズムとマキシマリズムの落差が興味深いが、裏を返せば何処となく散漫な印象を与える結果にもなっている。
ともあれここまでキャリアを積み重ねたバンドが、過去のどの作品とも似ていないサウンドを創造出来るというだけでも凄い事で、それもBjorkとは違って基本的にコラボレーションという外部からのインプットに依存していないのだから尚更だ。

惜しむらくはソング・ライティングに対する熱意が一切感じられない点で、各自のプレイヤビリティは言わずもがなではあるが、宛らユーモアの無いWilcoといった趣で、どの楽曲も致命的なまでにフックに欠ける。
アーカイブの中から「True Love Waits」をわざわざ引っ張り出してこなくてはならなかったというのは、つまりそういうことなのだろう。