Tyler, The Creator / Call Me If You Get Lost

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取り敢えずTyler, The Creatorのヒップホップ回帰作だと断言してしまっても差し支えないだろう。
自身のラップの存在感は前2作と比べ物にならず、特にM2でヘヴィなキック・ドラムに乗ったストレートアヘッドなフロウは滅茶苦茶に格好良い。
上音のネタ感も前2作より強い印象で(Fishmans「Just Thing」のイントロと同じネタ使いのM9は特に印象的)、サンプリング、ブレイクビーツ、スペースと間断、ブレーキングやマイクリレーと、自分の愛する本来のヒップホップの要素がぎっしりと詰まっている。

但し勿論単なる懐古趣味ではなく、Lil Uzi VertとPharrell Williamsを迎えたM14は、カリカチュアライズされたトラップとミドルスクール・ヒップホップを混ぜ合わせたような感じで、全体的にも寧ろクリシェを用いて遊んでいるような感覚がある。
(そしてそれこそ実にヒップホップの本質的な行為だと言える。)

ヒップホップ回帰と言っても勿論「Goblin」の頃に戻ったという訳ではまるでなく、「Scum Fuck Flower Boy」「Igor」で獲得した成熟やメロウネスは健在で、3部作と言っても差し支えないくらいの連続性を感じさせる。
8分に渡りコーラスも無く、淡々としかし含蓄に富んだラップを聴かせるM15のリリシズムは特に素晴らしい。

「Flower Boy」のソウル、「Igor」のファンクに加えて、M4やM10では新たにブラコン〜コンテンポラリーR&B的な意匠が導入されており、M10後半ではレイドバックしたラヴァーズ・ロック聴かせる等の多様性にも富んでいる。
エレクトロ・ファンクフィリー・ソウルを混ぜたようM12の変則的なリズム感も白眉(プロダクションは流石のJamie XX)で、目下のところのTyler, The Creatorの集大成と呼んで差し支え無い作品だと思う。